おじさんとどろぼう
あるまちに、いつもほがらかなおじさんがいました。
おじさんのわらいがおにつられてみんなもわらうから、
まちではいつもわらいがあふれていました。
あるとき、おじさんのおみせにどろぼうがはいりました。
そのどろぼうは、まちではよくしられているわかもので、
おじさんもわかもののことをよくしっていました。
うらぎられられたおじさんはおこりました。
そのようすをみて、まちのみんなはおどろきました。
だってみんな、いつもほがらかなおじさんしかしらなかったから、
いかりにふるえるおじさんのかおなど、みたこともなかったから、
いったいどうしていいかわからなかったのです。
どろぼうがぬすんだものは、とりたてておおさわぎするほどのものじゃない、
というひともいました。
そもそも、それをどろぼうとよぶべきかどうかもわからない、
というひともいました。
わかものをそそのかしたひとがいるから、そのひとがわるい、
というひともいました。
わかものはおじさんのところへあやまりにいきましたが
おじさんのいかりはおさまりませんでした。
まちのみんなはおこっているおじさんのことをきにして
どろぼうをしたわかものにつめたくあたることにしました。
わかものとくちをきくのもやめてしまいました。
やがてわかものは、まちをでていってしまいました。
おじさんは、いまはもういかりをみせることもなくて
いつもどおりの、ほがらかなおじさんです。
でもまちのみんなは、おじさんのわらいがおをみるたびに、
もうひとつのいかりにみちたかおをあたまにおもいうかべました。
そのうち、いまみているおじさんのかおは
わらっているかおなのか、おこっているかおなのか、
わからなくなってしまいました。
でも、そんなことをいったら、またおじさんがおこるかもしれないから
だれもそのことはいいません。
そんなことをくりかえしているうちに
しだいに、まちのみんなはわらわなくなってしまいました。
おじさんがそれをみて、どうおもったかはわかりません。
だってみんな、ほんとうはおじさんがどんなことをかんがえているか、
そんなこと、しりはしなかったからです。
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